石鳥谷図書館さんの企画展示の中でもかなり歴史のある『実はすごい!石鳥谷の「匠」展』
毎回、石鳥谷地域で優れた技能を持った「匠」を取材し、関連図書と共にご紹介されています。
今回の石鳥谷の「匠」展では、花巻市内で林業に従事しながら、チェンソーでアート作品を制作されている小原孝(こう)さんにお話を伺いました。
チェンソーアートとは、1本の原木もしくは氷の塊からチェンソーを駆使し、ダイナミックかつスピーディーに繊細な作品を作り上げるもので、カナダやアメリカ合衆国を発祥に、1970年代から始まったとされています。
小原さんは、県の伐木技術指導員、いわて林業アカデミー講師としても活躍されるかたわら、イベントでチェンソーアートのパフォーマンス披露等の活動もされるなど、林業の魅力を次の世代へ伝えるため、幅広く活動されています。
後編スタートです!
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比較的身近にある「スギ」を使用することが多いとのこと。スギは花巻市のみならず日本全国で最も多い樹種でもあります。本当は、彫刻に適しているといわれるクスノキを使ってみたいものの、手に入れる機会はほとんどないそうです。
林業の仕事を始めたばかりの頃、小原さんは切り捨て間伐(※1)の作業に携わっていました。間伐した木をそのまま山に残すこの作業で生じる木材は、林地残材(※2)や未利用資源などと呼ばれ有効利用が課題となっています。
「不要とされる木々に、新しい価値をもたらすことに、自分だからできる意味があるのではないか」と、林業に従事する小原さんならではの思いもありました。
そうした考えから、制作材料には切り捨て間伐によって出た丸太の一部も活用しています。
※1 切り捨て間伐(かんばつ)/森林の健全性を保つために不要な木を伐採する「間伐」の一種で、伐採した木を山から搬出せず、そのまま林内に放置する作業のことです。
※2 林地残材(りんちざんざい)/樹木を伐採した後に林内に残される、建築材などに利用できない枝、葉、根元などの部分を指します。現在ではバイオマス工場などで有効活用されるようになってきたこともあり、当時より林地残材は少なくなってきています。

「普段から“いいな”と思ったものは写真に撮っています。カプセルトイもチェックします」
日常で出合うもののほか、大切なインスピレーション源が二つあります。まずは、ドイツのメーカーが手がける「シュライヒ」のフィギュアたち。
「精密さが本当にすごいんです。裏の肉球まで再現されていて。気づけば自宅にはとんでもない量のコレクションが(笑)」
もう一つは、動物彫刻家「はしもと みお」氏。「同じく木を扱うものとして、はしもとさんのように作品を通じて誰かの心を動かすことができる人になりたいですね」と話す小原さん。


大会に向けた作品や依頼を受けた作品では下絵を描いてから取り組むこともあるそうですが、何も考えずに気の向くままに彫り進めることのほうが面白さを感じると語る小原さん。
「節が出てきたり、腐っていたり、繊維(せんい)が曲がっていたり。そういう“木の特徴”に出会ったときに、それらを活かしたデザインを考えるのが楽しいですね」と話します。
早いものなら1時間程度で完成するそうですが、大作には3日以上かかることもあるそうです。
「チェンソーアートの魅力は、何といっても圧倒的な早さですね。木材彫刻自体は丸太を削れば形になりますから、誰でも挑戦できます。でも、イメージ通りに刃を動かすのは本当に難しいです。仕事と同じで、頭の中のイメージをそのまま表現しないといけないので」と語ります。

仕上げにはチェンソーのほか、細部を表現するために電動工具やデザインナイフを使うこともあります。
小原さんが制作に臨む際に心がけていることは、なんといっても「安全第一」です。自身が指導する立場でもあることから、けがや事故を起こさないように細心の注意を払っています。楽しくないとき、刃が乗らないときは無理をしないことも大切とのこと。

危険と常に隣り合わせの林業の仕事のなか、チェンソーアートに取り組む時間は「ごほうび」と語る小原さん。
「彫っているときは“楽しい”気持ちが一番ですね。頼まれた作品は“喜んでもらえたらいいな”と思って制作しますが、基本的には自分が楽しむ時間です」
技術者とアーティスト、二つの表情がそこにありました。

これまでの作品の中で、最も思い入れのある作品をお尋ねしたとき、数年前に他界した娘・遥花(はるか)さんのことをお話してくれました。お盆の時期になると、遥花さんの好きだった妖怪モチーフの作品を毎年一体つくるという小原さん。遥花さんへの想いが込められている大切な作品たちです。

現在、小原さんは「いわて林業アカデミー」の講師も務めています。危険な業種を志す次世代の命を預かっているという大きな責任のもと、彼ら彼女らにチェンソーの技術や知識だけではなく怪我や万が一のことがないように、自分の命を守る方法をアカデミーの中で伝えていきたいと願っています。安全を強く意識するのも、「大切な人を失いたくない」という気持ちがあるからです。
これから取り組んでみたいことについてお尋ねすると、「チェンソーアートを通して、森林、そして林業に興味関心を持ってもらえたら嬉しいですね」と話す小原さん。いつか、林業やアートの枠にとらわれず、誰でも木に触れて遊べる、楽しめる、そんなイベントを実現してみたいと熱く語ってくれました。
森林業は長い時間をかけて次の世代へつないでいく仕事です。誰かがやらなければならない、だからこそ、興味を持ってもらえるきっかけをつくりたいと話してくれました。実は、息子・遼太(りょうた)さんも林業の道に進みました。「危険な仕事なので心配はあります。でも、自分の仕事が息子の目に魅力的に映ったのだとしたら嬉しいですね」と感慨深げに語ります。安全を第一に「楽しむこと」、そこから周囲の人や次の世代に響くものが生まれるのかもしれません。

仕事として、アーティストとして木とともに生きる小原さん。そんな小原さんの優しく情熱溢れるお人柄が現れる作品たち。今回、小原さんの作品の一部をお借りすることができました。ぜひその想いに、触れて、感じてみてください。



※こちらの記事は、石鳥谷図書館にて2026年2月4日(水)~4月30日(木)に展示されたものを、許可を得て転載しています。