• 石鳥谷の全てがここにある!?

    石鳥谷図書館さんの企画展示の中でもかなり歴史のある『実はすごい!石鳥谷の「匠」展』
    毎回、石鳥谷地域で優れた技能を持った「匠」を取材し、関連図書と共にご紹介されています。

    第42回 実はすごい!石鳥谷の「匠」展
    『南部杜氏の里で醸す、地の酒』

    石鳥谷地域は、日本三大杜氏の一つ「南部杜氏」の里として知られています。今回の石鳥谷の「匠」展では、石鳥谷で唯一の酒蔵、合資会社 川村酒造店の蔵元である川村直孝さんにお話を聞かせていただきました。

    後編、スタートです!

    ⇒ 前編は こちら から

    川村酒造店 蔵元 川村直孝さん

    ※文中の酉与右衛門の「酉与」表記について、正しくは、偏が「酉」つくりが「与」の漢字一文字になります。

    地元の米

     酒造りに欠かせない要素のひとつである米。現在、酒米(さかまい)はほとんどを地元の契約農家から仕入れている。

    「もともと、地元の米を使いたい思いがありました。それに、近くの農家さんだと顔が見えるのが大きいですね。直接話ができるし、実際に作っている所も見られるので安心感があります」

     約8年前に花巻農業高校で作った米を使って酒を造って欲しいと学校からの依頼を受け、生徒が名付けた『ヒカリノミチ』という酒を造った。この取り組みは現在も継続している。

    「地元の米と水で造った酒、やっぱりそれが『地酒』だとは思いませんか?」

    酉与右衛門

     川村酒造店には「酉与右衛門(よえもん)」という銘柄の酒がある。直孝さんの代で平成12年(2000)から新たに造られている酒だ。この名は創業者である川村酉与右衛門氏が由来。若いころから腕利きの杜氏として名を馳せ、南部杜氏組合の副組合長や町政など活躍の場は多岐にわたったという。

     直孝さんは、純米酒一本に絞ってやっていこうと考えたとき、創業時は全国どの蔵も純米酒しか造っていなかったこと、初代への尊敬の念があり、その名にあやかりたいという想いで名付けたのだと教えてくれた。偉大な先人の生き様を「酉与右衛門」という名の酒で今に伝えている。また、こだわって造っている酒だからこそ、花巻市内では取扱店が『わかば酒店』のみとなっている。

    「どこでも購入できるのも良いのですが、絞り込むのも一つかなと考えています。頑張っている酒屋さんや飲食店さんと一緒にブランドを育てたいと思っているからです」

    和・洋・中どんな料理とも相性のよい日本酒
    (撮影協力:わかば酒店)

    南部杜氏協会

     初代が、南部杜氏協会の前身である南部杜氏組合の副組合長を務めるなど、協会との関わりは深い。

    「石鳥谷に複数ある支部も今やひとつで足りてしまうのではないかというくらい減ってしまっている。自分の蔵からも南部杜氏を輩出させていくことで、多少の貢献はできているのかな…。まず自分の蔵がしっかりして、その中で若い人が育っていってくれればいいなと。それが自分たちの役割と思っています」

     初代の想いは4代目に受け継がれている。

    現在の南部杜氏協会

    100年

     酒造りに関してはある程度環境も整ったので、次は米作りだと考える直孝さん。現在の自家田は1町歩ほど。そこには『美山錦(みやまにしき)』と『陸奧(りくう)132号』を作付けしている。

    「陸奧132号は宮沢賢治にゆかりがある米なので知っている方もいるかもしれませんね。100年前の古い品種の米ですが、いいところがあるということを知ってもらいたいです。味に特徴のある米で造った酒と食材を合わせたときのマリアージュを楽しんでもらいたいですね」

    蔵の目の前に広がる自家田

     やり方や機械などは最新のものを取り入れつつ、創業時のように農業と酒造りを一貫してやっていくことを検討中で、自家田の拡張も視野に入れているそうだ。

    「今はとなりの農家さんに田んぼの面倒を見てもらっていますが、社員には農家さんの手伝いをしながら、やり方を覚えてもらっているところです。ゆくゆくは自分たちの手で作った米を使って酒を仕込んでいくことを考えています。酒蔵でいったら100年なんてまだまだ若手もいいところ。でも、100年続いたから、この先100年続けられるようにしたいなと。今はその基礎を作っているところです。田んぼと蔵とが一つの流れでできるように。もちろん現代版で、ですよ」

    地の酒を醸す

     昔は都会に対してコンプレックスのようなものがあったそう。「空気も水も綺麗な田舎は酒造りに向いている。そしたらこの辺りもいいところだなって思えるようになりましたね。年とったのもあるのかもしれないけど」そう柔らかい眼差しで話をする直孝さんが印象的だった。

    「全国歩き回って知り合った人たちとのつながりは今でもあります。地元農家さんや酒屋さんや飲食店さん、そしてお客さん。私たちはいろんな人に支えられてやってこられていますからね。皆さんの期待を裏切らないようきっちり酒を造り続けていきたいと思っています」

     自分が良いと思う酒を造って、それを楽しみにしてくれるお客さんがいる。酒造り冥利に尽きるだろう。

    「ありがたいことに、海外からも気に入ってもらって注文があります。評価されるのは純粋に嬉しいですが、海外への意識は高くないです。国内も全部いっているわけではなく、まだまだ届けられる所はあるので、まずは国内で足元を固めていきたいです。それより先にやはり地元ですね」

     “純米酒”は米と米麹と水だけで造られる。まさにテロワール、地元の味をダイレクトに感じることができる日本酒だ。

     土着した酒蔵として、支えてくれている人たちに感謝し、酒造りと蔵の未来のこと、地元のこと、南部杜氏のことを想いながら、これからも直孝さんは“うまい酒”を造り続けていく。

    ※取材協力 「川村酒造店」 「わかば酒店」 「南部杜氏協会」
    ※こちらの記事は、石鳥谷図書館にて2023年8月3日(水)~10月29日(日)に展示されたものを、許可を得て転載しています。


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