石鳥谷図書館さんの企画展示の中でもかなり歴史のある『実はすごい!石鳥谷の「匠」展』
毎回、石鳥谷地域で優れた技能を持った「匠」を取材し、関連図書と共にご紹介されています。
石鳥谷図書館さんのご協力により、コラボ企画が実現✨
石鳥谷の匠シリーズとして、石鳥谷地域情報発信サイト DO・RI・YAへ掲載させていただいております! ぜひお楽しみください。
石鳥谷の冬の風物詩でもある、たろし滝。
古くから地域に根づいた存在で、その年の作柄を占ってきました。
今回の匠展では、たろし滝の大切さを、後世に伝え残していくために、保存会を立ち上げ、長く活動されてきた、板垣寛さんにお話を聞かせていただきました。
板垣寛さんは、昭和7年(1932)、石鳥谷町大瀬川で、稲作農家の5人兄弟の長男として生まれました。
「幼い時から農業を手伝っていましたが、嫌だと思ったことは一度もなく、むしろ好きでした。忙しいから小学校休んで手伝えと親から言われたときも、喜んで手伝いをしてましたね」
戦前生まれのため、戦時中には稲作農家でありながら食糧不足を経験したそうです。
「取れたお米の大半は、『強権発動』という施策によって国に納めていたため、手元には少量の米が残るばかり。育ち盛りの子供たちや大人たちの腹を満たす工夫として、米と細かく切り刻んだ大根を一緒に炊いたものでしたが、少しもお腹の足しにはならなかったですよ」
板垣さんが14歳のときに終戦を迎えたため、出征することはありませんでした。
「私の小学生時代は戦争の時代でした。戦争なんて絶対にやるものではないと思います。日本はいつも平和国家であるべきです」
そう、力強く言われており、経験があるからこそ言葉に重みがありました。
岩手大学農学部農学科を卒業後も農業を主な生業とされてきました。昭和43年(1968)生産米数量が顕著であるとのことで、食糧庁長官より表彰を受けました。昭和58年(1983)には石鳥谷町議会議員に当選し、5期(20年間)連続で務められました。また、石鳥谷賢治の会初代会長、石鳥谷町芸術文化協会会長などを歴任するなど、様々な場面でご活躍されてきました。
板垣さんがたろし滝を初めて知ったのは、今から50年前の昭和49年(1974)。地域の古老であった、藤原丑五郎さん(当時75歳)から聞いたことがきっかけとのことです。
「ラジオやテレビがない時代、私の地域の先人たちがたろし滝の太り具合によって、その年の稲の作柄を占ってきた」
との話に興味を持ち、たろし滝を見に行くと、その存在感に圧倒されながら、先人たちの心を大切にしなければならないと感じ、行動を起こします。
「先人たちは、遠くからたろし滝を眺め、太いか細いかを見るだけでしたが、私はたろし滝の胴回りを、直接測って保存してみようと考えました」
そして、翌年2月上旬に、たろし滝を3人の友人に手伝ってもらい、測りに行ったそうです。
「時季はいつが適しているのかと思案し、盛岡の気象台に、岩手県で最も寒くなる時期を問い合わせてみたところ、2月上旬が一番寒いと言われました。測る場所は、幼いころに手伝いをした山仕事で、木の幹の太さを測るには目の高さで測るのだとの教えを思い出し、たろし滝もそれに倣って測ることを思いつきました」
こうして、たろし滝が一番育つ条件のよい2月に、目の高さで測ることを決めたのです。
「1年目は4.2mで作況指数*は109で、2年目は3.5mで作況指数は82となり、これはいよいよもって、たろし滝の太さは作況を表すものだと思い始めました」
その後、計測していちばん胴回りが太くなった年は、昭和53年(1978)で8mとなり、作況指数は112の大豊作の年となり、逆に平成5年(1993)の計測不能となった年は作況指数が30で、輸入米に頼るほどの大凶作の年となるなど、計測を重ねるごとに、たろし滝の太り具合が作況に影響を及ぼしていることに確信を得ていきました。
*当年の「お米の出来具合」を表す指標で、10a当たり平年収量に対する10a当たり収量の比率で表したものを作況指数という。計算方法は、当年の10a当たり収量÷平年収量×100
最初は2~3人ではじめた測定は、現在140人を超える会員がおり、今も板垣さんの熱意と思いが多くの人たちを動かしています。先人たちの心を大切にして後世に伝えていかなければならないと改めて感じているそうです。
毎年の測定に関して苦労を感じたことはなかったと話されていましたが、テレビなどで取り上げられ全国的な関心の的となると、たろし滝へ訪れる観光客が多くなっていきました。たろし滝までのルートには川があるため、花巻市役所の協力を得て、毎年仮橋を渡しています。ただ、夏場に川が増水すると橋が流されてしまう恐れがあるため、春には仮橋が撤去されます。このような、たろし滝に関わる環境整備には少し骨を折ったようです。努力の甲斐もあり、測定日には100人を超える人がその様子を直接見守ることができるようになりました。県内だけではなく、岐阜県や福岡県など全国各地から足を運ぶ人も多いそうです。測定会の日のみならず、大勢の人が訪れるようになったことで、たろしの里として地域活性にもつながっていきました。
後編へ続く…
※こちらの記事は、石鳥谷図書館にて2024年2月11日(日)~5月12日(日)に展示されたものを、許可を得て転載しています。
※たろし滝については、おすすめスポット>葛丸川渓流・たろし滝もご覧ください!